こんにちは、武中です。
前回からの続きですが、ま、なんというか昔の彼女にあったわけです。今のぼくからは想像もつかない、台詞ですが、そんな時代もあったわけです。
激しく揺れ動くチキンハート。受容と拒絶を繰り返す視神経。しかし、最終的には、どうにもこうにも本人であることが、脳内王大人によって紛れもないご本人様であることが確認されたわけです。
何年ぶり? 新帝国暦紀元前1600年以来だから…、途方もない月日が流れていることは間違いありません。
しかし、しかしですよ。ここだけの話、なんていうか相変わらず、なんてレベルではなく、かわいさに恐ろしいほど磨きがかかっています。そらもう、触れたら切れるくらい。正直、左心室から右心房までが完全に大破してます。
もし、過去に戻れるなら、なんでこんなかわいい子と別れたんだと、あのころのぼくをばっさりと袈裟懸けに斬り捨てます。悪即斬。
彼女のかわいさったら、ある意味甲子園クラスです。なんていうの、高校球児憧れの最高峰。それが神のいたずらだったのか、そんな彼女と付き合うこととなったわけです。超番狂わせ。都立高旋風巻き起こる! みたいな感じでした。
でもね、ぼくは甲子園出場で力尽きました。もう、どうしていいかわからないわけです。無心で地区予選を勝ち進んだものの、甲子園で戦う術は持っていませんでした。ましてやその先の未来なんて…。
「お前たちは、よくやった。胸を張れ」なんて脳内監督は言ってましたが、そんな大層なことをやったわけではなく、むしろ詰め腹切ってわびるべきでした。未来のぼくに対して。
時は戻り、極至近な過去へ。元彼女との遭遇にあたって完全に虚をつかれ、ぼくのシナプスが激しく暴走していましたが、ここでフリーズしている場合じゃありません。システムをサブに切り替えて、必要最小限のメモリとアプリケーションを駆使し、この戦局に挑みます。
「ひさしぶり」
「うん。元気だった?」
「ぼちぼち、かな」
「そう」
「うん」
「じゃあ」
「じゃあ」
会話終了。死ね。死んで、極至近の未来のぼくに詫びろ。
食卓には、カニが並んでいます。鍋では昆布出汁がふつふつと煮えています。さっと、カニを出汁にくぐらせ、奥能登の海水塩を使った「塩ぽん酢」でいただく。ふわりとカニの身がほぐれ、つつましくも凛と振舞う塩ぽん酢が口の中で芸術的なハーモニーを奏でる。美味。これを美味といわずして、何を美味といいましょうか。
続いて練りゴマと秋田の白神大豆のしょうゆに、ウニ醤を隠し味としてくわえて、ぼく特製のカニしゃぶ用ごまダレにつけてみました。ごまのコク、しょうゆの香り、なによりもウニの深みある味わい。やや半生のカニの身にからみ、これまた美味。塩ぽん酢が軽やかなピアノの音色だとしたら、こちらはゆったりとした弦楽の調べ。甲乙つけがたし。
それは未来のぼくに斬り捨てられることを危惧した過去のぼくが、助命嘆願の意をこめて注文したカニしゃぶ1kgです。そら、おいしいさ。とてつもなくおいしいですよ。だからとって、ぼくがこれで許すとでも? 翻意するとでも思ったか、この痴れ者めがっ!
というわけで、明日はブリしゃぶ。明後日はタイしゃぶ。明々後日は、再びカニしゃぶです。そら、心躍るさ。心躍るけど、ぼくはこれからカニを食べるたびに、過去のぼくに斬りつけたくなるんだろうなぁ。
ふっ、命拾いしましたね、過去の武中とやら。生憎、ぼくは時を越える刀を持ち合わせていません。実に、残念ですよ。
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