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2008年7月

2008.07.18

ぼくとお兄様と女の子

 こんにちは、武中です。

 引越しをしました。以前は、アニメミュージアムで有名な上荻でしたが、今度はマッドハウスがあることで有名な荻窪です。マッドハウスといえば、マスターキートンや十兵衛ちゃんですが、今回の話にはあんまり関係ないので本件に関しては割愛します。
 さて、引越し当日です。ぴんぽーん、と呼び鈴がなりましたので外に出ると、こわもてのお兄様。ひいっ。お兄様はにっこり笑うと「こんにちは、引越し屋です」とおっしゃりました。ふう。
 ぼくは、「よろしくお願いします」というと、お兄様も「よろしくお願いします」とおっしゃり、そして「こちらは、アシスタントです」とお兄様が助手の方を紹介してきました。

「きょうは、よろしくおねがいします」

 女の子だ。親方、親方。女の子がやってきたよ!
 すみません。取り乱しました。大手では、女性だけの引越しスタッフなんてのを売りにしてるところもあるし、珍しいことではないんでしょうね。
 さて、所詮は一人住まいです。荷物の量なんてたかが知れています。搬出作業は手際よく進み、唯一ベッドだけがきつそうでしたが、エレベータにも無事入り部屋の中はからっぽです。引越し屋さんはトラックで転居先に向かい、ぼくは折りたたみ自転車にまたがって転居先へ向かいます。
 引越し屋さんより先に到着。その5分後、トラックが到着します。そして、こわもてのお兄様が部屋に来ていいました。

「ここの階段では、ベッドが入りません」
「そうですか…」
「そこで、ベランダから吊り上げて、部屋の中に引き込みます」
「おお!」
「そこで、相談があるのですが」

 お兄様がいうには、この作業はお兄様と女の子だけではムリで、ぼくの力を借りたいといいます。そりゃあ、こわもてのお兄様のお願いなんて断れないし、なによりも女の子を助けるという大義名分はぼくの武士道をくすぐります。ぼくは、ふたつ返事でOKします。
 まず、ベッドを紐で縛り、ぼくとこわもてのお兄様が上から引き上げ、女の子が下から持ち上げます。ある程度持ち上がるとお兄様が女の子に向かって「来い!」と叫びます。女の子は、ダッシュで部屋に上がり、3人で引き上げます。しかし、なかなか持ち上がりません。

「ポジションを変える!いったん、手を離す!」

 お兄様はより力が入れやすいように、ベランダの塀の上に乗りあがり、そこから引き上げるとのことです。しかし、そのためには一次的に、ぼくと女の子でベッドを支えなければなりません。
 ちなみに、ぼくはただでさえ貧弱なのに、この数日の引越し準備でヒジと腰に違和感を覚えており、かつ手術した左膝も最近だいぶ具合がよくありません。そして、この女の子ですが、どうみてもただの女の子です。非力ではないにせよ、アニマル浜口の娘とかそんな感じはいっさいありません。

「いくぞ!」

 こわもてのお兄様が手を離します。

「くっ!」

 これは、想像以上にきついです。ちらりと、横を見ると…、

「うううっ」

 うううっ、って。ダメそうです、女の子。まずい、ぼくらふたりの戦闘力があまりにも低すぎます。しかし、武士たるものできるできないなど取るに足らないことです。ぼくの中の士魂が萌え盛り、脳内アドレナリンを強制分泌。「ふぬうううううううううう」と出力120%で引き上げます。

「よし、よく耐えた」

 そこで、お兄様が塀の上のポジションをキープし、この絶望的な戦いに希望の光をもたらしました。なに、この男前な登場の仕方。
 ですが、ぼくも女の子もすでに限界を超えています。頭の中には「手ぇ、離しちゃいなよ」と悪魔がささやき、「よくやったよ、パトラッシュ。ゆっくりとお休み」と天使がささやきます。正直、脳内議会は賛成多数であきらめかけていたのですが、ぼくの視界のはしに女の子がうつります。

「ふええええええええええええ」

 泣きそうです、女の子。すでに力尽きかけていたぼくですが、「ふええええ」といってる女の子を救えなくてなにが武士か、なにが三井寿かっていうんです。ぼくは、脳内の片隅に監禁されていた安西先生をランボーがごとく救い、メインシステムを「あきらめたら、試合終了だよ」モードに切り替えました。
 安全装置解除。機関、臨界点突破。出力150%。
 とたんに悲鳴をあげる2本の腕。腰は破壊的な痛みを覚え、両足はつりかけています。それでも、全筋力、全体重をかけてベッドを引き込みます。
 そして、ベッドはゆっくりですが確実に引きあがり、なんとか部屋に入れることができました。あと少し長引いていたら腕か腰か足か、いずれかが壊れていました。なにはともあれ、よかったよかった。

「お客さん、すごいがんばってくれました!すごいですよぉ」

 その笑顔が見られるのならば、このぼくに不可能はないさ。なんてことを思う余裕すらなく、「どうだ、父ちゃんすごいだろ」とつぶやいた小岩井さんのようにぐったりしてました。
 おかげで、部屋を片付ける余力は残っておらず、そして、仕事も始まってしまうとなかなか時間がつくれず、なんだか倉庫で暮らしてるような感じです。ま、別にいいや。どうせ、ひとりなんだし。

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